小型時代小説(その1)
朝子と韓子 
(この小説は2000年6月1日夕刻の「金正日、北京訪問」のニュ−スを受け、同日の夜に書き上げたものです)
何十年も喧嘩していた二人。
そんな中、これまでは黙りこんで何を考えてるんや--と思われてた当事者の一人が、
特定の人に対してではあるけれど、「私の話も聞いて!」と言い出した。
このフツ−の行動の意味はとても大きいよ。
何だかもう、雪解け間近って感じがして来たね。
(物語はここからです)
戦災孤児の双子の姉妹がいた。
二人はいじわるな親戚の家で育てられた。
その後、ある男のおかげで親戚から開放された二人は、男夫婦の世話になることになった。
だが、それもつかの間、理想の違いによって夫婦が対立。姉妹の間にも喧嘩が絶えなくなってしまった。
結局、夫婦は離婚。血を分けた二人は、義理の父母それぞれの養子となり、
国道38号線の向こうとこっちの町で、離ればなれに暮らす事になった。
父が育てた姉の韓子は、始めはやや内向的だったが、少しずつ自信をつけ、やがて社交的な子供になった。
父は「かいしょナシの母親のとこにいる妹と違い、韓子はホントにいい子だ」と子供を育てた。
口癖は、「いつでもお父さんが守ってあげるから」。
だが時には厳しい口調で、「母親や妹たちがやってきたら、まずお前が一番になってやっつけるんだよ」とも言い聞かせた。
その後、韓子はまあ、すくすくと育った。
やがて結構なお金持ちにもなった。
自分の家で、母方の友人も招いて、大きな運動会を開いたこともある。
憎かった親戚とも、まあ仲直りした。やっぱりもとは血の繋がりのある相手。今では一番よくお互いの家を行き来しているくらいだ。
でも、「妹の朝子は悪い奴。家もものすごく貧乏。何をしでかすか分からない」という考えだけは消えない。
父や親戚も、まあ、だいたい同じような意見だ。
一方の朝子は、どちらかというとずっと人見知りするタイプ。豊かではないが厳格だった母のもとで育てられた。
母からは、父や韓子は堕落したダメな奴だと教えられてきた。
朝子は、そんな韓子をいつかやっつけてやろうと考えていた。
やらなければ、いつかはこちらが、韓子たちにひどい目にあわされるかも知れない。
作戦を立てるため、国道38号線を越えて韓子や親戚の家を偵察に行ったこともある。
でも、韓子は強そうだ。ましてや一本気な父を怒らせたら、多分、母よりも怖い。
親戚は父の会社の丁稚になっていた。基本的には父のいいなりだ。
だが金儲けは上手かった。
もちろん朝子とはうまくいってないが、時にはこっそりとお年玉を送ってくれる事もあった。
そんな時、突然、朝子の母が亡くなった。
体が大きくなりすぎて、予想以上に内臓が弱っていたらしい。
若い頃の母はバレリ−ナの様なイイ女だったが、ある時期からウォッカが欠かせないデブ女になっていた。
知らせを聞いた父は、味音痴らしく水のようなビ−ルとホットドッグを口にしながら、そら見たことかと言わんばかりに高笑いした。
父の天下が来るかと思われた。
だが、そんなに一方的に事は進まない。
ずい分長い間、寝たきりだった母方の姉・中子が、少しずつ健康を取り戻してきたのだ。
中子はもとは母と同じような考えで、今も基本的な考えは変えていないが、父や親戚とも交流を始め、次第にライフスタイルを変え始めた。
「これからの私は、一人の人間で二人の人格を使い分けるあるよ」
中子は父や親戚や韓子とも、けっこう仲良しになった。
そのうち中子は、一時期、金持ちだとエバっていた親戚なんかよりもずっとエライ人になり、父に対してもはっきりモノを言える立場になった。
で、朝子は古風なライフスタイルのままで、孤立してしまった。
父を始めとする人たちは、そんな朝子の事を始終、話題にしていた。
「そのうちキレたらどうしよう??」
そんな時、朝子のもとに韓子から大中の手紙が届いた。
大きい方の封筒には「私たち、もともとは一卵性だったのよ。一度会わない?私からはじぇったいにあなたをいじめないわ」というメッセ−ジが。
中くらいの封筒の中には「お父さんたちと一緒に暮らさない?」という誘い文句が。
朝子は悩んだ。一人ぼっちはもう限界だ。
頼る人がいないのをいい事に、召使いたちの中には、家の乗っ取りを企ててる奴もいるようだ。
おちおちしてはいられない。
会ってみたい気がする。
確かに、最近耳にする韓子の噂には、以前程、悪い印象はない。
でもあんなに憎んだ相手。もう一つ信用できない。
それに韓子と父と親戚のおばはんはグル。会って仲良くはなっても、下っ端扱いされるに決まってるわ。
やっぱり、自分の考え方を変えるくらいなら、一人ぼっちの方がマシかも。
多分、私を分かってくれるとしたら中子おばさんくらいしかいない。
だけど、その中子おばさんも、最近はハデで堕落しているようにも見える。
いやちょっと待てよ。
韓子が言ってた「お父さんたち」の中には、中子おばさんは含まれてるのかしら?
多分違うわ。
そうだ! 中子おばさんだわ!
中子おばさんは面子にこだわる人だから、一度、相談しておいた方がいいし、味方につけとくべきよ。
それに、のこのこ韓子と会う前に、中子おばさんに会っといた方が、デビュ−としてはカッコいいわ。
でも今更、何だか連絡しにくいな。
その頃、中子おばさんも同じような事を考えてた。
韓子ったら何だかもう一つ、私になつかないわ。それに、あの親戚。口ではいい事言っても、結局は父のいいなり。
二人とも子供の頃、勉強見てあげたのも忘れて、家柄も何もないあんな男の方がいいなんて。いまいちプライドが満たされないわ。
何かいい方法はないかしら。
そうだ! 朝子がいたわ!
ちょっと連絡とって見ようかしら。
父も親戚も、今は二人がうまく行くこと、朝子が孤立しないことを望んでる。
韓子は手紙書いたらしいけど、100%うまく行く自信はないみたい。
朝子って、ちょっといいカ−ドかも。
うまく誘えば、じぇったい、先に私と会いたいと思う筈よ。
でも、根回しだけはちゃんとやっとかないといけないわね。
え-っと、お父さんと韓子へ。
「もしかしたら、今度、朝子が来るかも知れないあるよ。もし、そんな事があったら、みんなで仲良くできるようお話しするのことよ」
これでよしっと。
で、あとは来ると決まってからの連絡でいいか。
本気で反感買いそうなら、やめればいいし。
そうなったらそうなったで、妥協してあげた分、「貸し」が作れるわ。
何があったかを知らせるのは話の内容にもよるわね。
うまい話は黙ってるけど、変な要求されたり、結託したと思われたりしたらマズイから、非公式とはいえ一応、記録はしとかなきゃ。
いい話が中心なら、朝子のOKを取って、家に着いた頃発表しよっと。
面倒が起こると嫌だし、何といっても映画好きの朝子が喜びそうな演出じゃない!
ともかく、朝子に「貸し」一つあるね。
でもこれは、朝子のためにも韓子のためにも、お父さんのためにも、いい事よね。
多分、感謝されるわ。特に韓子は大人だもの。
二人にも「貸し」一つあるね。
にしても、誰か一人足りないわね--。
しまった。親戚の奴らのこと、完全に忘れてたわ!。
まあいいか。どうせあいつは役にたたないんだし、「神の国」なんて言った罰だという事にしちゃえ。
それに、今は選挙でお忙しいんでしょうしね。
(1年後には、はたしてどんな展開になっているんでしょうか。僕は2005年までに南北が和解している方に賭けます)
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