中国定点観測@(2002/9/24)


 5年振りに訪中。
 北京の繁華街で、市場価格をチェックしてみた。

 日本とそう変わらない。

 ビッグマックのセットは300円、牛丼の並セット(キムチ、味噌汁付)320円。

 だけど。
 日本以上に流行っているぞ。

 吉野家は最近、月イチペースで店舗を増やしており、すでに北京に20軒もあるのだが、
牛丼をセットにせず、「並」だけなら180円くらいなのに、そういうセコイことやってる奴はあまりいないぞ。

 しかも一部の金持ちじゃなくて、ガキどもがおやつ替わりに食べている。

 ちなみにその他の物価はというと。
 ホコテンのテークアウトでコーラの小ボトル80円、缶はなぜか160円。
 スタバでアイス・モカMサイズにミルクを入れたら450円。
 百貨店で小さなキャベツが50円。
 タクシーの初乗り160円。
 テレカは800円と1600円。
 都心の食品店で大カップの辛ラーメン110円。
 輸入モノと思われるミネラルウォーターの小ボトルは240円、きつねドン兵衛に至っては何と400円じゃ。

 中国、恐るべし。
 「国際価格、どんと来い!」ってな感じだ。

 何せここは土地は公有(!)だから、地下鉄や道路面でのキャッチアップが速いくらいじゃ驚かないが、
消費分野でのそれについては、ひたすらに驚異だ。


 郊外では、どんどん超高層マンションの建設ラッシュが進んでいる。

 ちなみに北京市の面積は四国(!!)と同じくらいらしいので、
まだ土地はたんとある。

 (中国真大!)


 この。
 中国の、特に消費社会としてのめざましいキャッチアップぶりについてだが。

 ふと考えこんでしまうのは、
中国における「安い労働力と旺盛な消費力」は、本当にいつまでも両立していくのだろうか?
ということだ。

 豊かになれば消費が増え、当然、生産も増えてまた豊かになる・・・というサイクルができればいいが、
今はアダム・スムスの頃とは違い、3次元の世界同時経済だ。
 皆が豊かになる時は、とりも直さず人件費が上昇し、世界市場での競争力を失う時でもある。

 条件は日本の成長期よりも多分、かなり過酷だ。
 全ての先進国の経済は今、決してよくないし、モノだってもう飽和状態。100円ショップが200円になったら、もはや誰にも見向きはされないだろう。
 一人っ子政策以降の子供がそろそろ20歳を迎え、何年か後からは人口が減少基調に入ることも見逃してはいけない条件だ。

 もし仮に所得移転がうまく進んで、人件費が今のペースで上がっていけば、
さすがの中国も「世界の工場」としての有資格者ではなくなる。
 ユニクロや100円ショップはもちろん、あらゆる製品がもはや中国製ではもたなくなるのも時間の問題かも知れない。

 だから、シナリオその1は、世界の工場としての中国バブルが崩壊し、
結局は今の日本のようにパッタリと勢いが止まってしまうというパターン。

 その時が多分、
世界経済が再び大転換を余儀なくされる時なんだろうな。


 異論はもちろんある。
 まず、所得移転がそんなにうまく行くかどうかが疑わしい。

 何せ、あれだけでかい国だ。
 しかも、超・資本主義(笑)の。

 例えば北京市では最近、60キロほどの道路を半年ほどで作ったらしく、
 「農村人口を公共事業に振り分けてきた」やり方は、日本と同じだ。
 が、決定的な違いは、
日本(=社会主義国)の場合、例えば土木作業をされる方の日当が普通のホワイトカラーと対等かそれ以上だったという点。

 だからこそ日本では所得移転がうまく行き、皆が「中流」になれたのだ。

 多分、中国(=資本主義国)の場合はまだ、彼らの所得は、多分20分の1とか10分の1ってところなんだろう。
 ってことは、この国には、働いても働いても「埒があかない」人たちが、80%以上も残ってしまうということになる。
 
 で、シナリオその2としては、
今さらながら(笑)、そのうち資本家と労働者の対立が激化。

 リーダーはもちろん、農村出身の「一人っ子」(笑)。

 この国の行政や経済の実権をもっているのは30台後半から40台で、ちょっと本当に大丈夫? というか、
総体として、バブルの頃の日本人のように浮き足だっている風なのが心配なのだが、
多分、ターゲットとなるのは、何十年か後の「奴ら」じゃ。

 いずれにしても、急成長が鈍化してきた時期に民主主義への要求が高まり、
何でも多数決を採用したことが致命傷となって、
現体制のいい所までもパー・・・みたいな未来は想像できない訳ではない。


 で、シナリオその3は以上2つの中間値。

 人口減少が始まる中国は相変わらず世界を相手に商売する6千万+と、
自国中心にモノやサービスを供給する「中流」国民にゆるやかに分かれながら、
例えば日本で言えば大きな茨城県、あるいは佐賀県や三重県や福井県のように、何だか分からんがうまく生き延びていく。

 人件費が高くなったシンセンとかが、その「イケイケ」部分を他都市に奪われながらも、
まあ何とか今でもやっているみたいに。

 「世界の工場」として中国をおびやかす国があるかというと、現時点ではその候補者はベトナムくらい。
 だから、かつて「生産基地」が台湾や韓国やマレーシアから中国に移転した時のようなような訳にはいかないってこともある。

 まあ、最低でもオリンピックまではそう極端な所得移転は進めず、
一方では「世界の工場」であることをバネに、
工業の国内化を進めて行く
というのが中国政府の方針なのだろう。

 だからこそ。
 消費と生産は、まるで「やじろべえ」のような絶妙のバランス、
駒のような微妙な経路を辿って「発展」の循環を保っていくのだろう。


 が。

 もし本当に工業の国内化がうまく進めば、
もはや一部を除く第3国企業は
そうそう、おいしい思いはできなくなるよね。

 事実、家電などはもう「国内産」で十分って感じにもなって来ているし、
今は車関係の提携・進出がすごいらしいが、
そのうち多くの「中流」が「純国産車」を手にするようになるのも時間の問題なんだろうな。

 まあ。

 外国企業云々の話以前に、
もしそうなれば、先に危なくなるのが「地球」じゃ(笑)。

 皆が「富める者」になれないことは、あんまりだよねという気は勿論するが、
そうあることで、地球と世界経済はまさに「助かって」いる、というのも事実だと思った。