雪印社長の辞任(00/7/7)


 腐った牛乳事件(?)で雪印の社長が辞任した。
 一回目の記者発表は、確かにかなりおそまつで、「エッ、雪印ってこんなにしょぼい会社だったの?」と感じた。
 にしても、あんな会見になっちゃった原因は一体何だったんだろうか。

 仮説1:単に工場長が馬鹿、もしくは広報担当者を始めとする事情聴取者が無能だった。
もしくは工場長のみが事実を知っていたが、会社へのきちんとした報告は行っていなかった。
あるいは会社への報告の後、例えば発表の寸前に工場長のみが事実を知った。
 で、正直に、あるいは仕方なく、もしくは良心の呵責に耐えかねてあの場で「自供」してしまった。

 仮説2:工場長はちゃんと事実を報告をしたが、上司もしくは広報担当者がミスを隠そうとした。で、社長は知らずに会見に出ていた。(以下同じ)

 仮説3:社長も報告を受けていたが、事実を隠そうとしていた。(同)


 そもそも、何であの会見は社長、広報担当者、工場長というメンバ−でやることになったのだろうか。
 仮説3の場合も含め、何せ信用第一のメ−カ−なのだから、社長がでていって誠意ある謝罪をし、一発でケリをつけようとしたというだけだったのかも知れない。
 もし事実を知らなかったんだとしたら、あの社長は結構オヤブン肌のいさぎいい、責任感も強い人だったのかも知れないし、あるいは誰かにハメられて、こじれた時にツメ腹を切る役にさせられてしまっていたのかも知れない。

 まあ、「完璧な安全」を前提にしている企業である限り、ああなってしまった以上、辞任はやむを得ないことだったんだろう。
 品質管理だけでなく、組織もかなりくたびれて来ていたのだろうし、トップを守らなければと思う人材がいなかったって事もあったかも知れない。
 当然、そういう組織を作ってしまった責任も彼自身がとるしかなかったんだろう。

 でも、何だか気の毒な気分は拭えないな。
 パ−フェクトな組織、失敗のない仕事なんかあり得ないし、トップが全ての情報を把握し、全ての責任を負えるだけの体制を作るのなんて、絶対に無理。
 血や愛情を前提とした家族単位でだって、そんなの至難の技だよ。
 ブレアのガキだって飲酒で補導されちゃう位だもの。

 で、信用の失墜を最小限でおさえ、皆も一応これで納得。とりあえずめでたしって事になりつつある訳だけど、
もし彼がズルい「保身マン」なら、工場長か担当役員にその役目をふり、自分は処分を発表する側、あるいは最後の最後に頭を下げる側に回る事だってできた筈。
 心ある人はそんな裏側についても斟酌してあげるべきかも知れないと思う。
 矢面に立っている人だけでなく、その裏側に隠れている人たちの事を見抜く習慣って大切。
 失態は失態、組織としての責任として、それをズルく逃れようとした奴が一番悪いみたいな社会評価もあって然るべきだという気がする。

 実は僕の知人に、ミスを犯した現場の担当者として、マスコミの矢面に立たされた奴が二人ほどいる。
 彼らにも当然「責任」はあったが、実際は部下や前任者や業者の失敗だと言えば言えない事はなかっただろう。
 でも彼らは逃げなかった。もしくは逃げられなかった。
 で、簡単にいえば上司は「逃げた」。

 彼らは責任感が強かったか、男気があったか、組織命令に忠実だったか、小心者のお人よしだったんだろう。
 で、一人の彼は悪人扱いで会社を辞め、家族にも去られて一生パ−。
 もう一人の彼は、トップや偉い人への火の粉を食いとめたことが、少なくとも社内的には理解され、それなりに出世の速度が速まった。
 後者の彼の組織は、よくも悪くも成熟した大人の組織。結構、責任分掌のル−ルもしっかりしてて、首の皮一つで、組織と従業員の両方を大事にしているという事になるんだろう。

 日本人にはトカゲの尻尾切りみたいに、誰かが矢面に立って責任とれば一件落着みたいな所がある。
 別に後者の彼の組織がいいとは思わないけれど、いたし方ない風土の中では、まだよくやっている方だ。
 根本的な問題は、日本の社会に、実際の責任の所在割合みたいな事を冷静かつ合理的・客観的に分析するル−ルや習慣が、全く不足しているという事なのではないかという気がする。

 さて、一連の騒動の舞台となった雪印の大阪工場は閉鎖されるっていう。
 だとすれば、今回の事件に関する処分を受ける人だけでなく、無実の従業員までが職を失い、事実上、処分に等しい仕打ちを受ける事になる。

 信用回復のためにそうせざるを得ない面もあるのだろうけど、ちょっと過剰反応しすぎてるんじゃって気もする。

 過剰反応には当然、デメリットだってつきまとう。
 少し前の製薬会社の目薬回収もそう。彼らも収益ガタ落ちには目をつぶり、信用を守る道を選んだ。
 もちろん彼らの場合は、一歩まちがって被害者が出たら、「牛乳」どころの被害では済まなかったかも知れないし、その意味ではとても立派な判断だったと思う。
 でも一方では全ての企業が、愉快犯や恨みをもつ人によって、いとも簡単にめちゃくちゃにされてしまうという前例も作ってしまった。

 噂では、去年の紅白歌合戦でも裏で爆弾騒ぎがあったそうだ。
 で、彼らは過剰反応しない方に賭けた。
 まあ、何もなかったからよかったし、それなりに万全の対策も打っていたのだろうけど、最後は、実際には「まあイタズラやろう」とか「え-い、行ったれ」みたいな感じだったかも知れない。
 空港やイベント会場や野球場なんかでも、多分、同じ様な対応。
 いちいち止めてたらキリがないからだけど、一応、利用者や観客は情報もなしに、危険にさらされているっていう事になる。

 多分、業界単位での対応や保険みたいなもの、あるいは罰則の強化、安全重視策に対する補償制度など、国としての対応が必要なんだろうな。

 せちがらい世の中に加え、今年の夏も暑い。
 牛乳だって腐りやすいし、変な奴だって出ない方がおかしい。
 品質管理は個々の問題だけど、
責任の所在を含めた合理的な危機管理方法については、
組織の中、業界内、あるいは国のレベルも含めそれぞれに、事前ル−ルの強化・申し合わせみたいな事が不可欠なんだろうな。

 まあ、そんなこんなも含めて。
 誰か今回の雪印の数日間をしつこく念入りに調査してみてくれないかな--。
 辞めた人たちの本音の言い分も含めて。
 他人事じゃなく、色んな意味でものすごく教訓的なノンフィクションになると思うし、これをモデルにして一本の映画位、軽くつくれるんじゃないかっていう気がするんだけれど。